米国のオバマ大統領と欧州委員会のバローゾ委員長が、交渉に入ることを発表した。この協議は、ブラジルと中国のような新興国にとって圧力になる。
米国と欧州連合(EU)は、13日、自由貿易協定の締結に向けた交渉に入ると発表した。もしこの交渉が成功すれば、世界の財とサービスの生産の半分、その通商の30%を占める、地球上で最大規模の自由貿易圏が誕生することになる。 このニュースは、中国とブラジルのような新興経済国にとっては大きな圧力がかかることを意味する。
米国とEUの協議は、6月にスタートする見込みで、現在の欧州委員会の任期が終了する今後2年で結論を下すという意欲的なもの。 交渉に関する共同声明は、米国のバラク・オバマ大統領が国民向けの演説が行われた後に発表された。
「大西洋をまたいだ公正で自由な貿易は、何百万という素晴らしい雇用を米国民にもたらす」と、オバマ大統領はコメント。ブリュッセルでインタビューに応じた欧州委員会のジョゼー・マヌエル・ドゥラン・バローゾ委員長は、この協定が世界貿易の「駆け引きの変化」を象徴することになると発言した。
一連の取り組みは、世界貿易機関(WTO)によるドーハラウンドの「まやかしに対する最後の一撃」も意味する。 国連貿易開発会議(UNCTAD)元専務理事のルーベンス・リクペロ氏は、「米国とEUは、貿易により経済危機を乗り越えることを確信しているというメッセージを伝えたいし、それは、WTOと新興諸国に対して圧力を加えるということでもある」と指摘する。
米国とEUは、既に、市場が比較的解放されている。 輸入関税の課徴率の平均は、米国では3.5%、EUでは5.2%である。今回の協定締結に向けた最大の課題は、環境から安全規格、あるいは文化の創生といった、貿易に直接的に影響しつつも多岐にわたる分野に関して、共通の規定を策定することである。
このため、その取り組みは極めて複雑なものになる。 こうした交渉の経験を持つ専門家にエスタード紙が意見を求めたところ、米国とEUは、異なる「哲学を持つ」と言う。 例えば遺伝子組み換え作物に対して欧州が疑ってかかりリスクがないと証明されるまで承認しない一方で、米国は、「容認できるリスク」を受け入れ、失うよりも得る方が大きな製品を認める。
国際標準の今後。 EU通商委員のカール・ドゥ・グヒュト氏は、「もし、米国との間で標準規定を策定できれば、それが世界標準になるチャンスがある。それは、我々の産業にとってとても重要なことだ」と指摘する。そしてこれが、ブラジルのような国にとっては最大の懸念になる。
外務省関係者は、米国とEUの戦略は、中国に対して圧力を加えることにあるという見方を示す。 「米国とEUは、航空機あるいはその他のあらゆるものの製造に対する規格を策定し、中国は、常にその後塵を拝することになるだろう」と、その外交官は言う。 米国はさらに、中国を除く環太平洋諸国との通商・投資のパートナーシップ、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の交渉も進める。
その結果、現時点で多国間により議論されている新たな規準が米国=EU基準にシフトすれば、これを単純に受け入れる側になるという点で、ブラジルにとっても影響は不可避なものになる。ブラジルは過去数年にわたって2か国間条約を締結しておらず、そのため、置かれた状況はよりデリケートなものになる。 セルジオ・アマラル元開発・産業・貿易大臣は、「地域レベルで見ると、ブラジルは、ようやくわずかな協定を締結しているにすぎない」と指摘する。
米国とEUによる自由貿易協定の締結に向けた試みは、今回が初めてというわけではない。 1949年に北大西洋条約機構 (NATO)が設立されて以来、両者は、貿易面でもこれと同等のものを立ち上げたいと主張してきた。従来と異なるのは、今回は、経済危機がこの交渉を後押しする可能性がある点だ。(2013年2月14日付エスタード紙)
米国とEUの自由貿易協定に向けた合意がメルコスルとEUの交渉の圧力に
10年以上にわたり協議が続いているメルコスルとEUによる自由貿易協定の交渉の完結に向け、ブラジルが大きな圧力を受けた格好だ。これこそ、米国と欧州連合(EU)が発表した、自由貿易協定に向けた交渉に入りがブラジルに与えた影響の1つである。
ブラジル政府関係者によると、米国とEUの大西洋を挟んだ交渉が進展した場合、ブラジルにとってはEUとの合意が、食料と医薬品、その他の製品の安全性に対する国際標準を決定する場に影響力を行使できる唯一の場になる。「欧州側は、関係国から意見を招請することなく米国側と交渉することができなくなる」と、こうした分野で交渉の経験を持つこの人物は言う。
現在、技術的な仕様とその他の規定は、世界貿易機関(WTO)あるいは国連食糧農業機関(FAO)において、多国間協議により策定されている。今回の大西洋をまたいだ協定が誕生すれば、米国とEUが策定した規準が、世界の残りの地域でも基準として適用されてしまう。
同様にブラジルが懸念しているのは、牛肉と鶏肉の重要な生産国である米国が、EU市場へのアクセスを拡大しかねないという点だ。
現時点でメルコスルとEUは、だ2013年第4四半期に交渉を再開し、開放する市場に関する提案を双方が持ち寄ることで合意している。 開発・産業・貿易省はブラジルの工業部門に対して、合意に対して「気後れしている状況を緩和」するよう申し入れた。もっとも、最大の課題は、あらゆる分野で通商を自由化することをアルゼンチンに認めさせることである。(2013年2月14日付エスタード紙)
(論評)大西洋を挟んだ貿易協定とブラジル
ジエゴ・ボノモ
アメリカのバラク・オバマ大統領が、国民に対する演説の中で、米国と欧州連合(EU)が太平洋を挟んで歴史的な自由貿易協定、環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)の締結に向け交渉を開始すると発表した。この発表は、政治的であると同時に実利的なものである。貿易量に関して言えば、TTIPは史上最大の貿易協定になるだろう。
大統領は共和党の伝統的な主張を踏襲、貿易面では意欲的な取り組みを発表したという側面がある。もう一方で、米国の経済成長への回復と雇用の創出に向けて輸出(と市場の開放)が果たす役割をオバマ大統領が認めたという点で、今回の発表は実利的でもある。
TTIPは、交渉中の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)と併せ、中国こそ除外されているが、北大西洋と北太平洋というグローバル資本主義の2つの枢軸が通商の統合に向かうキーパーツになるだろう。
20年前、冷戦後の世界は3極に分かれると信じられていた。つまり、米国が主導する枢軸と、ドイツが牽引車となって欧州と中東、アフリカが主導する枢軸、そして、日本を中心にした東南アジアの枢軸である。
この「3極」は、現在、アフリカと中央アジア、中東、ラテンアメリカ、更に何よりもBRICsを除外した「商業地帯」(TTIP-TPP)に収斂したと言える。互いに競合していることから、BRICsが、実現可能な代替の枢軸を立ちあげるチャンスは、ほぼ残されていない。
TTIPは、ブラジルに対して即座に2つの打撃を加えるだろう。つまり、米国とEU向けのブラジルの輸出に与える影響という、貿易の潮の流れの変化と、世界貿易機関(WTO)における交渉の力関係に変化をもたらす可能性である。
加えて、既にブラジルが参加しない状況の中で多国間で既に組織化され取り組みが進められているサービスとIT、通信に関して、米国どころかその他の国々による附帯的な貿易協定により補完されることになる。
2008年以降、ブラジルは、明確な外交と貿易の戦略を描いておらず、ブラジルの貿易は引き続き、3つの迷信に支配されている。その迷信とはつまり、保護することが成長につながるということと、農業はオフェンシブであるが工業は違うということ、そして、先進国との協定は依存を生じさせむしろ成長も雇用ももたらさないというものである。当然の帰結としてブラジルは、貿易面で、メルコスル内部ですら、地位を低下させている。
こうした状況を前にして、戦略を持たないことが進むべき道の1つであるはずがない。ブラジルは、貿易政策を見直す必要があるが、あるいは、格言のごとく結末を迎えるだろう。いわく、急いて逃げれば捕らえられ、座して待てば食われる。(2013年2月14日付エスタード紙)
著者は、ワシントン商工会議所ブラジル・アメリカ・ビジネス・カウンシル公共政策部会長。